前回の続きです。
パソコンを使っているとします。使っていると動きが重たくなってきました。やろうとしていることがなかなか進みません。ここでパソコンを使い慣れていない人は壊れたかと思って修理に出すかもしれません。しかし、修理に出してもどこも悪いところはないと言われる。ここで親切な修理業者であれば、次のようなことを教えてくれるかもしれません。タスクマネージャー(パソコンに入っているシステム管理ツールであり、CPUやメモリを常に監視する機能がある)を開いて、CPUやメモリ(パソコンが動くために必要な資源)を必要以上に独占して負荷をかけている特定のプログラム(タスク)を見つけて、そのプログラムを終了すること。またはパソコンを再起動すること。これで重かった動きが軽くなることが多いからです。
これは何をやっているかと言うと、CPU やメモリという限りのある資源を、特定のプログラムが必要以上に独占して負荷をかけているのを見つけ出し、そのプログラムを終了させることで、その資源であるCPUやメモリを開放します。そうして解放された CPU やメモリを、他のプログラムに使ってもらうのです。パソコンを再起動する時は、これらをまとめてリセットします。パソコン上で動作していたプログラムを一旦すべてやめて、CPUもメモリも全て解放してからパソコンを立ち上げます。
パソコンを使い慣れている人はこのことをよく知っていて、割と頻繁にこれをやります。それは修理業者に持っていくほどのことでもないし、自分でできることだからです。1日に何回もタスクを終了させることもあれば、ときにはあまり何回も同じことが起こると、この特定のプログラムが悪さをしてそうだと目星をつけることもあります。このCPUやメモリを常に監視する機能(タスクマネージャ)はパソコンの OS(基本ソフトウェア) にもともと備わっているものです。
人間に置き換えてみます。日常生活の中で、特定の動きがしづらくなってきたとします。どこかに悪いところがあるのかもしれないと思い、病院に行って診てもらうとします。レントゲンを撮っても問題はない。検査をしても悪いところはみつからない。どこも悪いところはないと言われる。ここでほとんどの人は諦めて、そのまま生活を続けます。実はそういう時、私たちの身体は、どこか特定の関節や筋肉を不必要な緊張で固め、ロックしてしまっていることが多いのです。
例えば、不必要な緊張によって肩や腕の筋肉や関節を固めることで、本来は背中を含む身体全体を使って行う動作を、肩でその力の流れを止めて、腕だけでやってしまっている状態です。この場合、肩や腕に負荷がかかって身体の他の部分は仕事をさぼっていることになります。それを、自分でその不必要な緊張に気づいて、肩や腕の負荷を解放します。すると、不必要な緊張による肩や腕の筋肉や関節のロックが解除し、偏っていた負荷が身体全体に分散されて、動きづらかったのが軽くなっていきます。
しかし、実は身体全体に負荷を分散して、身体全体を使って効率よく働く、その仕組みは私たちの身体に元々備わっている心身のシステムの機能です。なので、本来アレクサンダー・テクニークを知らない人でもできることです。アレクサンダー・テクニークとは全く縁のない人が、とてもいい自分の使い方をする人がいるのはそのためです。
しかしほとんどの人は、その身体全体を使って効率よく働く仕組みを忘れ、特定の場所に負荷をかけたまま、その負荷を解放させることなく、新しい負荷を次々とためこんだまま、何十年も日常生活を送り、それが普通になってしまい、それが普通だと思い込んでいます。
私たちアレクサンダー教師が、「首は楽で、頭が前へ上へ、背中が長く広く、⋯」と表現しているのは、たまたまアレクサンダー教師の共通言語で表現しているだけで、アレクサンダー・テクニークとは関係なく、誰にでも備わっている、負荷を全身に分散した理想的な自分の使い方です。
アレクサンダー・テクニークが他と違うのは、この日常生活を送っている中で生じた負荷の偏りに気づいて、それを解放し、全身に分散させることを自分でできるようにすることです。私の経験では、ほぼパソコンと同じ頻度で起こります。串打ちをしている仕事中、一日に何回も負荷の偏りを解放(タスクを終了)して全身に分散させます。仕事が終わって家に帰ると必ず横になってリセット(再起動)します。そうしないと、次の日にその負荷の偏りが持ち越されてしまうからです。
これらをしないまま、毎日過ごすのは、「動作が重たいな」と思いながらパソコンを使い続けるようなものです。