歯医者さんに行くと悩ましいのが、口をずっと開け続けていると、顎が疲れてきて痛くなってくることです。そうして、口を閉じるとホッと一息つくのです。歯医者さんの先生も、作業を続けた後「はい、楽にしてください」といって作業を中断します。顎を落として口を開け続けることは疲れることだという前提のセリフです。まるで、口を開け続ける力が衰えて弱っているようにみえるかもしれませんが、事実は違います。
このとき、私がやっていると思っていることは「口を開け続けている」ことです。実際に口を開け続けているわけですから、間違ってはいません。「口を開け続けている」ことは意識してやっていることです。
一方、身体は何をしているのでしょうか。私の身体は、「顎を噛みしめる力を強くして」いるのです。そうして、口を開け続けようとする力に対して反発し、新しく拮抗する力を生み出しています。「口を閉じよう」としているのです。「口を閉じよう」としていることは無意識に身体が行っていて、身体がもともと備わっている機能が発動しているだけです。
人間にとって、理にかなう(意識的な)行動と、理にかなわない(無意識または半意識的な)行動の境界はあいまいだ。その結果、自分がしている身体行為について思い込みにおちいる。
F.M.アレクサンダーによる著書4作の要約 アレクサンダーテクニーク 第1部第2章1主張の概要からP13
自分が意識してやっていることは「口を開け続ける」ことであり、身体が無意識にやっていることは「口を閉じようとし続ける」ことです。ここでいう思い込みというのは、「なんで口を開け続けるのがこんなに大変なんだろう、衰えてきたのかな、力をつけなくちゃいけないな」とかいうことです。
人間はまず、この争いが存在することを認識し、次に、衝動的な欲求と合理的な思考を区別することを学ばなければいけない。
F.M.アレクサンダーによる著書4作の要約 アレクサンダーテクニーク 第1部第2章1主張の概要からP13
自分がやっていると思っていることと身体がやっていることが違うために、本来必要のない緊張を「口を開け続ける」にも使い、「口を閉じようとし続ける」にも使い、疲れてしまうのです。この意識してやっていることと、無意識に身体がやっていることを明確に区別することが必要だとF.M.アレクサンダーは書いています。
たとえば、原因不明の無力症を克服しようとがんばっていると信じているのに、実際には自分自身が無意識にしている不必要な拮抗筋運動への抵抗に打ち勝とうとしているのかもしれない。
F.M.アレクサンダーによる著書4作の要約 アレクサンダーテクニーク 第1部第2章1主張の概要からP13
「原因不明の無力症」とはこの場合、口を開け続けることができないことです。「自分自身が無意識にしている不必要な拮抗筋運動への抵抗」とはこの場合、噛みしめる筋肉が口を閉じようと頑張っていることです。
意識してやっていることと無意識にやっていることの綱引きです。「口を開ける」筋肉(本来は口を閉じる筋肉を緩めればいいのですから、これは使われるはずのない筋肉が助けに来ていることになります。もしくは、口を開けるときに使われる筋肉を必要以上に使っているのか。)と「口を閉じる」筋肉が戦っているのです。
普段、食べたり話したりするときには口を開けるたびに疲れることはないので、どこからそれが始まるのかが問題です。私の場合は、ただ口を開けるだけでも力で制御しているとフースラーの先生に言われたことから、最初から綱引きで戦っていることになります。
解決方法は、口を開けるときには、不必要な力で開けようと頑張るのではなくて、顎を噛みしめる筋肉から不必要な緊張を取り除いて緩むことです。そうすると、口を開け続ける不必要な緊張もなくなっていきます。そうすると、顎から派生する様々な問題が解決していくことになります。
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本文中の引用は、「F.M.アレクサンダーによる著書4作の要約 アレクサンダーテクニーク」ロン・ブラウン著/八木道代日本語版監修/大田直子 ガイアブックス の13ページです。

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