アレクサンダー・テクニークでは、身体のあらゆる関節がスペースを持つように長くなると考えることで、関節を構成する筋肉が不必要に縮んで固まらないように働きかけます。
顎の関節も関節の一つなので同じように考えることができそうです。顎の関節を構成する組織同士がいい感じに距離をとるように、長く広くなるように考えます。その結果上の歯と下の歯は自然に離れていきます。ここで、アレクサンダー教師として考えるのは、上の歯と下の歯が離れていくのは結果だということです。上の歯と下の歯が離れていくようにするだけでは、噛み締めようとする筋肉が収縮して働いたまま上の歯と下の歯を離そうとする力が働くことも考えられるからです。私が、顎の力を抜いて口を開けていたつもりが、「それは身体で制御している」とフースラーの先生に指摘されたことにあたります。ブレーキをかけながらアクセルをふんでいると表現することもできます。
試行錯誤する中で、歯医者さんの提案でマウスピースを作りました。これをつけてわかったことは、このマウスピースは噛みしめることを防止するものではなく、噛み締めても歯に与える影響を少なくするためのものだということです。
歯を大事にするためには、このマウスピースは有効です。上の歯と下の歯が触れないように努力することもきっと役に立ちます。しかし、残念ながら健康的に声を出すには別の手段をとらざるをえません。噛みしめる筋肉が不必要に緊張しないことが必要だからです。