高い音ってどこから高い音なんでしょうか。人によって違うと思います。高い音をテーマにしたところで何をもって高い音なのか定義はありません。ここでは「高い音で声を出すのが苦手」「高い音で声が出ない」と自分のことを思っている、または誰かに言う、人のことを考えてみます。
意識して自分がやっていることは、まず次のようなことが頭をよぎります。「もうすぐ高い音だ」「高い音を出さなくちゃ」「高い音は苦手だ」「音は外したくない」。そうして、実際に高い音を出すときには声を出すことに力を注ぎ、「のどを締めないように」努力しながら声を出します。毎度高い音にくると同じことを繰り返し、なんでそうなるのかを考えることはほとんどしません。なぜなら、自分は「高い音で声が出ない」人だからです。
無意識に身体がやっていることはなんでしょうか。高い音だと自分で思っていないところでは、重力に対して上に向かう力が全身に働き、全身が必要最小限の力で拮抗し、自然に振動が起こることで声を出しているとします(これができていない場合はここから始める必要があるかもしれません)。「もうすぐ高い音だ」と考え始めた瞬間に身体が変わります。実際に高い音がやってこなくても、「もうすぐ高い音がやってくる」という刺激に対して習慣となっている思考に伴い、身体は反応します。それは、喉を締め、身体を固め、自然に振動が起こることを妨げることをしているのです。
人間にとって、理にかなう(意識的な)行動と、理にかなわない(無意識または半意識的な)行動の境界はあいまいだ。その結果、自分がしている身体行為について思い込みにおちいる。
F.M.アレクサンダーによる著書4作の要約 アレクサンダーテクニーク 第1部第2章1主張の概要からP13
自分が(意識的に)やっていると思っていることは、高い音を出そうとしていることです。それに対して身体が(無意識に)やっていることは、自然な声の鳴りとしての声帯の振動を押さえこんでいるのです。この場合の思い込みは、自分は「高い音で声が出ない」人であるということです。
人間はまず、この争いが存在することを認識し、次に、衝動的な欲求と合理的な思考を区別することを学ばなければいけない。
F.M.アレクサンダーによる著書4作の要約 アレクサンダーテクニーク 第1部第2章1主張の概要からP13
高い音が出ないのではなく、声帯周りの組織を緊張させて固めることで高い音が出ないようにしているだけです。もしくは、声帯周りの組織を緊張させて固めないと高い声が出ないと身体が思い込んでいるのかもしれません。声帯の機能として高い音が出るのか出ないのかが判断できる状態ではありません。違う問題です。
ギターの弦に例えると、「もうすぐ高い音だ」と思ったとたんに、ギターの弦やボディを押さえながら弦を弾いて「このギターは高い音が出ない」と言っているようなものです。
たとえば、原因不明の無力症を克服しようとがんばっていると信じているのに、実際には自分自身が無意識にしている不必要な拮抗筋運動への抵抗に打ち勝とうとしているのかもしれない。
F.M.アレクサンダーによる著書4作の要約 アレクサンダーテクニーク 第1部第2章1主張の概要からP13
ここでの「原因不明の無力症」とは、高い音で声が出ないことです。「克服しようとがんばって」高い音で声を出そうとしています。「無意識にしている不必要な拮抗筋運動」は、声帯周りの組織を収縮させ固めることで声が鳴らないようにしていることです。意識してやっていることと無意識にやっていることの綱引きです。意識的に声を出そうとするのと、無意識的に声が鳴らないようにするのとが戦っているのです。
そのスイッチは「もうすぐ高い音だ」という習慣からくる思考です。これをやらないために、その考えを起こさないように、次から次へ間をおかず声を出させるようにする先生もいます。そのやり方が合っていて解決につながるのであれば、それでいいのかもしれません。しかし、それでは考え方を変えたことにはならないので、ふとした瞬間に考えがよぎると、習慣でいつもの自分に引き戻され、声帯周りの組織を固め始めることになります。
解決方法は、高い音が近づいても変わらない自分でいること。そのためには、高い音が近づいてきたときの思考のパターンと身体の反応を認識することです。そこからスタートです。
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本文中の引用は、「F.M.アレクサンダーによる著書4作の要約 アレクサンダーテクニーク」ロン・ブラウン著/八木道代日本語版監修/大田直子 ガイアブックス の13ページです。

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