極力専門用語を使わないで書いていきたいのですが、このページでは文章を短くするためにアレクサンダー・テクニークの用語を使います。わからなくて気になる方は、単語にリンクを貼ってあるのでそれぞれのページに飛んでみてください。
朗読するまでの道筋をたどってみます。
自分自身が間違った使い方をしないために、一旦立ち止まって刺激からくる反応をしないように[抑制(inhibition)]します。自分自身が良い使い方でいるための方向づけ(direction)を考えます。そうして不必要なことは何もしない(non-doing)自分を見つけていきます。
次に「朗読をする」という行為を分解してみます(means-whereby)。これについて私はまだ道半ばなので、自分の分かる範囲でしか書けませんが、口を開ける・黙読する・目を客席へ向ける・声を出す・母音を言う・子音を言う・単語を言う・呼吸する・声帯を震わせる・顎を動かす・舌を動かす・表情を変える・等など。この中のどれを選んでやってみても「頭を後ろへ下へ引き下げる」を発動しないことが必要です。これは別の言葉で言い直すと、間違った自分の使い方をしないことであり、良い自分の使い方でい続けることであり、不必要なことは何もしないことです。
不必要なことは何もしない(non-doing)自分でいられるようになると、不必要なことが起こったときに気づくことができるようになります。真っ白い紙に見慣れると、以前は気づかなかったような汚れや黄ばみがわかるようになるのと同じです。最初は不必要なことが起こった後に気づき、次に不必要なことが起こることに気づき、最後には不必要なことが起こる前に気づくようになります。
そうして、分解した行為(means-whereby)を一つ一つやってみては、抑制(inhibition)をし、方向づけ(direction)を考え、不必要なことは何もしない(non-doing)自分でいられるようにしていきます。不必要なことは何もしない(non-doing)自分でいられることが増えてきたら、分解した行為を組み合わせていきます。その都度同じように不必要なことは何もしない(non-doing)自分でいられるようにしていきます。そうして、最後は「朗読する」という言葉を使わないで朗読するところまで持っていき、不必要なことは何もしない(non-doing)自分のまま朗読することができれば、できあがりです。
初めてこれをやるのは大変です。やっていることを理解するのにも時間がかかるし、不必要なことは何もしない(non-doing)自分でいるのもやっとのことです。しかし一度理解すると、道筋は把握しているので、どのようにすすめていけばいいのかもわかるし、程度の差はあれど不必要なことは何もしない(non-doing)自分というものがどういうものかがわかれば実現はしやすくなります。
まだやり方を探しながらだったF.M.アレクサンダーは一人で何年もかけてここまでたどり着きました。もしF.M.アレクサンダーが別の道筋を通っていれば、アレクサンダー・テクニークは全く違うものになったはずです。しかし、今日のアレクサンダー・テクニークの基本原則はこういったF.M.アレクサンダーの経験がもとになっているのです。
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