F.M.アレクサンダーは舞台で朗読するときに起こる喉のトラブルの原因を自分で見つけようと決意しました。
鏡を使って自分を観察し続けた結果、喉の問題を軽減させるには、「頭を後ろへ下へ引き下げる」ことを防ぎ、「頭を前へ上へ持っていく」必要があること、をつきとめました。
しかし、習慣の強い力と感覚的評価が不確かなために、「頭を後ろへ下へ引き下げる」ことを防ぎ、「頭を前へ上へ持っていく」のを起こすことを同時に実現させることはできなかったのです。
そこで、「頭を後ろへ下へ引き下げる」ことを起こさないためには、朗読を始めようと考えたその瞬間に、朗読することそのものを辞める必要があると考えました。そうして、朗読するという刺激から「頭を後ろへ下へ引き下げる」という反応の癒着をはがしていこうとしたのです。
さあ、朗読をするという刺激がくると同時に「頭を後ろへ下へ引き下げる」という反応を起こすことをやめることができました。でも、ここで朗読をはじめるととたんに「頭を後ろへ下へ引き下げる」がまた始まります。これではいつまでたっても朗読をすることができません。何か違うことをしないといけません。
ここからさきは、F.M.アレクサンダーのストーリーを話すのは難しいので、朗読するまでの道筋をたどってみます。
そのために、まずは余計なことをしない自分を見つけていきます。実際のレッスンでは一気に実現するのは不可能なのですが、ここでは時間を早回しして一つ一つ実現できたものとして先に進みます。
首は楽で・頭は前へ上へ・背中は長く広く考えていきます。そうして、全身が重力に対して上に向かい、関節も筋肉も長く広くなるように考えていきます。全身の筋肉が必要最小限の緊張を持って働くようにします。頭の中は静かでいるようにします。これらは、アレクサンダー・テクニークの言葉でいうところの、自分自身が良い使い方でいるための方向づけ(direction)です。これら方向づけ(direction)のための言葉は、アレクサンダー教師によって違うこともあります。レッスン生に合わせてもっとたくさんの指示を詳細に考えることもあれば、ざっくりした指示の方がいい場合もあります。方向づけ(direction)の難しいところは、やろうとすると良くない場合が多いことです。身体が自然とそうなるように持っていきたいものです。
そうして不必要なことは何もしない自分でいられるようにしていきます。この、不必要なことは何もしないでいることをアレクサンダー・テクニークの言葉で(non-doing)といいます。
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